ずっと覚えていて、その日にはこんなことをしよう、あんなことを伝えようと思っていたのに、当日になるとすっかり忘れてしまうことがある。きのうがまさにそうだった。今週の月曜日には揃って休みをとり、出かけていたにもかかわらず、そのことを思い出したのは夕方、いつものように夜ごはんのしたくをしていたとき。厚揚げを切りながら突然思い出した。わたしたちはきのう、23回目の結婚記念日を迎えた。
23という数字にはなんの感情もないけれど、2年後には銀婚式だよと言われるとさすがに驚く。当時のわたしたちはそれぞれに家庭の事情を抱えていて、それらから逃げるための最善の手段として選んだのが結婚だった。甘さも夢もない、ものすごく現実的で打算的な理由ではじまった生活だったけれど、そのおかげで今の穏やかな日々がある。夫がいてくれたから、わたしはわたしとして生きていけるようになった。わたしにとって、それ以上の幸せは多分ない。そんなことを考えながら朝ごはんを食べた。夫はまだ寝ている。

少しひんやりとした心地よい風が吹いているなぁと思っていたら、急にびゅううびゅううと強まってきた。風におどる南部鉄製の燕たちが、ちりんちりんとかわいい音を鳴らす。
